ピロリ菌は十二指腸潰瘍や胃潰瘍の主な原因であり、また、WHOからも胃がんの原因と言われているものです。日本ではもともとピロリ菌の感染率が高く、また、東アジアのピロリ菌は悪性度が高いため、日本では胃がんが多かったと考えられています。最近では、胃がんの死亡率が低下していますが、これは環境の改善に伴いピロリ菌の感染率が低下していることが大きな要因と言われています。
先日、愛知医科大学が分析した日本人のピロリ菌感染率が報告されました。
1998年以降に生まれた人の感染率は10%以下ということでした。以前は井戸水のような環境からの感染だったための感染が考えられているので、年代が若くなるにつれ感染率が下がっているのは当然かと思います。ただ0%でないのは母親からの口移しが感染経路となっていると考えられています。そのため、お若い方でもご自身のお母様にピロリ菌感染が見られた場合は検査をおすすめいたします。逆にご自身がピロリ菌に感染していた場合、ご自身のお母様のピロリ菌感染を調べておいた方が良いと思います。内視鏡検査に抵抗がある方は血液でピロリ菌感染を調べることもできますのでご相談ください。
ピロリ除菌の目的は、胃・十二指腸潰瘍の再発予防や胃癌発症の抑制のため、高齢者では除菌の意味がないとお考えの方もいらっしゃるかと思いますが、そんなことはありません。高齢者の方にとっては、これらに加えて薬剤による上部消化管出血の予防があります。高齢者で服用が増える腰痛やひざ痛の鎮痛薬だけでなく、心筋梗塞や脳卒中を起こした後に服用することが多い抗血小板薬、抗凝固薬(いわゆる血液をサラサラにする薬)も上部消化管出血のリスクを上昇させます。
従来、ピロリ菌が長期間感染している高齢者では、ピロリ菌除菌を行っても、それまでの長年の炎症が影響し、胃粘膜の改善は難しいと考えられてきました。しかし、高齢者でも除菌することで、粘膜の状態が改善し、出血しにくくなることが分かりました。また、高齢者への除菌療法も、除菌成功率や安全性では、若年者と大きな差は見られないと報告されています。そのため、年齢にかかわらず除菌にはメリットがあると思われます。
ピロリ菌感染が心配な方、今まで検査を受けていない方、ご家族にピロリ菌感染がいた方はぜひ検査を受けましょう。そして、ピロリ菌感染が分かった方は除菌しましょう。新しい胃薬が出たため、除菌成功率も上がっています。