院長コラム

2018.05.09

鉄人と大腸がん

先日、元広島カープの衣笠祥雄さんがお亡くなりになりました。71歳でした。鉄人と呼ばれ、国民栄誉賞まで受賞された方がこのような年齢で亡くなったことに大変驚きました。と同時に、上行結腸がんという病名を聞いてさらにびっくりしました。

大腸がんは、最近では早期に発見できれば治癒する確率が高い病気であり、消化器を専門にしているものとしては、大腸がんは定期的検査で防げると考えているからです。防げる病気で不幸にも亡くなってしまったことを考えると、大変残念に思います。

なぜ防げなかったのか、なぜ早期に発見できなかったのか?これには上行結腸がんという、がんのできた場所が関係しているかもしれません。上行結腸とは、下の図の様に体の右側にある大腸を指しますが、この、右か左、大腸のどちらにがんができるかでその後の予後が変わってくることが最近注目されています。過去の大規模臨床試験における右側と左側で予後を比較した研究が2016年のASCOという世界的に大きな学会で、左側の方が生存期間が長かった、と報告されました。大腸の左右とは、単純に体の中心で分けるのではなく、発生学的な違いで分けられており、下の図の様に分けられます。

大腸がんでは発生する部位が右か左かで予後が変わります。『大腸がん検診ガイドライン・ガイドブック』によると、大腸がんの部位別発生頻度は右側26%、左側74%と、左側でかなり高く、さらに細かく言うと、直腸約35%、S状結腸約34%と、上行結腸11%、横行結腸9%、盲腸6%次いで下行結腸5%となっており、直腸S状結腸に圧倒的に多く発生します。

つまり、大腸がんが多く発生するのは左側なのに、予後に関しては右側の方が悪いということになります。この予後の違いにの原因の一つに右側、左側での発見のしやすさの差が影響している可能性が考えられています。

左側では腸内で便が固まっているため、便が細くなる、明らかな血便、腹痛などを起こしやすく、進行してくると腸が狭くなり腸閉塞を起こしやすいという特徴があるからです。そのためにご本人も気づきやすい傾向があります。しかし、右側では便がまだ固まっておらず、症状が出にくいため発見が遅れがちになりやすいということになります。

現在では更に研究が進み、右側のがんの細胞の遺伝子には予後不良因子となる変異が多くみられたり、抗がん剤の効果も左右で異なるということも分かってきました。そのため、今後は左右の違いで用いる抗がん剤の種類も異なってくるかもしれません。

ただ、左右いずれにしても、抗がん剤を使わなければならないような進行がんになる前にきちんと検査して早期に発見すれば問題はありません。症状が無くてもきちんと検査を受けましょう。何と言っても大腸内視鏡検査がベストです。

最後になりましたが、心より鉄人のご冥福をお祈りいたします。今回のことで少しでも大腸がんの予防について皆さんが考えるようになればと思います。